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長崎家庭裁判所 昭和40年(家ロ)23号 審判

申立人 塚本啓三(仮名)

相手方 田中キイ(仮名)

相手方 田中友子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、相手方キイは当庁昭和三八年(家)第四七号精神衛生法による保護義務者選任審判事件において、精神障害者たる相手方友子の保護義務者に選任せられたものであるが、その後、相手方キイは相手方友子らを相手に、長崎地方裁判所に対し、別紙目録記載の物件につき、相手方友子と申立外川井一男との間に、昭和三四年一一月二八日付売買予約の存在しないことの確認、および同物件につき昭和三七年一月三〇日付相手方両名間の贈与契約を原因とする所有権移転登記手続を求める訴を提起し、該訴訟は現に同庁昭和三九年(ワ)第一〇二号事件として係属中であるから、相手方キイは精神衛生法第二〇条第一項第二号にいわゆる「当該精神障害者に対して訴訟をしている者」に該当し、相手方キイは保護義務者たる資格を喪失したものである。なお、申立人は右訴訟事件につき相手方友子より訴訟代理の委任を受けたものであるが、相手方キイは昭和四〇年四月八日突如長崎地方裁判所に対して、相手方友子作成名義の申立人に対する訴訟委任を解除する旨の解任届を提出し、申立人は既に相手方友子の訴訟代理人を解任されたと主張して申立人の弁護活動を妨害するので、さきに当裁判所が相手方キイを相手方友子の保護義務者に選任した審判の取消を求めるため、本件申立に及んだ、というのである。

よつて、按ずるに、前記訴訟事件の訴状訂正の申立書写に当庁調査官平野英二の事実調査の結果を綜合すると、当庁昭和三八年(家)第四七号精神衛生法による保護義務者選任審判事件において、相手方キイが精神障害者たる相手方友子の保護義務者に選任せられたこと、その後昭和三九年四月一日、相手方キイが相手方友子らを相手に、長崎地方裁判所に対し、前記申立の要旨記載の訴を提起し、該訴訟は現在、同庁昭和三九年(ワ)第一〇二号事件として係属中であることが認められる。

およそ、精神衛生法にいわゆる保護義務者は保護義務者としてそれ相当の能力を有し、かつ忠実に被保護者の利益を計るべき者であることを必要とすることから、精神衛生法第二〇条第一項は保護義務者の欠格を規定して、右のような要件を著しく欠くと認められる者を列挙し、その者から保護義務者たる資格を剥奪したのであり、しかして、保護義務者は、就任後と雖もかかる欠格に該当する事由が生じたときは何らの行為を要せずして法律上当然に保護義務者たる地位を失うものと解すべきところ、前記認定の事実によれば、相手方キイが相手方友子に提起した前記訴訟は被保護者の利益のために形式的な訴訟関係にあるものではなく、真に被保護者との利害が衝突して提起したものであることが明らかであるから、右訴訟を提起した相手方キイは、同条第一項第二号にいわゆる「当該精神障害者に対して訴訟をしている者」に該当するものというべきである。

そうだとすると、相手方キイは前記訴訟の提起と同時に保護義務者の欠格に該当し、法律上当然に保護義務者たる地位を喪失したものであるから、最早相手方キイにつき保護義務者の選任を取消す必要はないものといわねばならない。

よつて、申立人の本件申立はその必要(利益)がないものとして、これを却下すべきものとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 鍬守正一)

目録 省略

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